マッチングアプリで知り合った7歳年下の男性〜体を重ねても「付き合えない」と言われて〜

イラスト:新倉サチヨ

ふとした瞬間に、昔すごく好きだった人の面影や言葉が頭をよぎることがありませんか。

胸の内にしまっておいてもいいけれど、その人を美化しすぎたり悲しみが恨みに変わったりすると心が不安定になりかねません。美しくも苦しい強烈な恋の記憶は「博物館」に寄贈してしまいましょう。当館が責任を持ってお預かります。思い出を他人と一緒にしみじみと鑑賞すれば、気持ちが少しは晴れるでしょう。ようこそ、失恋ミュージアムへ。

出会いは有料のマッチングアプリ。キリッとした顔写真をまず好きになった

「今日は質問されたことだけを話そうと思います。私はしゃべるのが下手なくせに調子に乗りやすいので……」

愛知県内のイタリアンレストランに来ている。木をふんだんに使った落ち着きのある内装で、ほどよく日差しが入る店だ。名物のラザニアも食べられるランチコースを2人分注文した。

ほどなく出てきた新鮮なサラダを前に、ちょっとしおらしくしているのは県内で会社員をしている栗原真奈美さん(38歳)。好奇心で輝く瞳が印象的な独身の美人である。

真奈美さんは昨年末に失恋をしたばかり。原因は自分が「調子に乗った」ことだと分析している。

「出会いは有料のマッチングアプリです。半年で4人に会い、彼は2人目。キリッとした顔をまずは好きになりました。写真、見ます?」

気軽にスマホを見せてくれる真奈美さん。調子に乗りやすいというより、楽しいことが大好きでサービス精神も旺盛の女性なのだろう。スマホ画面の中で笑顔を見せている公務員の陽一さん(31歳)は確かにハンサムだ。

行動力もある真奈美さんはすぐに「いいね」を送った。すると陽一さんからメッセージが来て、アプリ上でのコミュニケーションが始まった。

「お互いに好きなものについて、2、3日に1往復ぐらいのやりとりでした。彼はクラフトビールとワインが好きで、私はビール以外のアルコールなら何でも飲みます。1カ月後、飲みに行く話になりました」

初めてのデートの帰り道、彼の腕を両手でギュッとつかんだ

マッチングアプリは、登録情報をもとに、比較的簡単に会える距離に住んでいる登録者を自動的に表示してくれる。気になる人がいたら、「いいね」ボタンを押すだけで相手に好意が伝わる。ただし、写真を含めたプロフィールは男女ともに「盛っている」ことのほうが多い。

「会ってみたら、顔が違っていました(笑)。もちろん本人なのですが太ってしまったみたいです。それでもカッコいいと思ったし、カウンター席で近くに座ってもまったく嫌じゃない。むしろすごく楽しくて、普通にボディタッチをしていました」

真奈美さんはお酒が進むと「やや肉食」になる傾向があるようだ。陽一さんのほうも楽しそうな様子で、定年退職後の夢まで語り、そんな自分に驚いていたらしい。可愛げのある男性である。

2軒目でも話は盛り上がったが、お互いに翌日は仕事があるので22時前には解散することにした。早くも気持ちが高まってしまった真奈美さん。駅まで戻る歩道橋のエスカレーターで陽一さんの腕を両手でギュッとつかみ、そのまま手をつなぐことに成功した。

「マナちゃんは小悪魔なの? ドキドキするよ」

陽一さんは戸惑いながらも嬉しそうだ。もはや恋愛モードである。

その2週間後、2人はテーマパークを兼ねた住宅展示場に遊びに行った。当然、営業担当者からは新婚カップルのように扱われたという。

「夜はまた駅前で飲みました。隣の席が見えないほど薄暗いバーに行ったら、彼のほうから頭や肩を触って来たんです。その流れでキスまでしてしまいました。帰りがけに『うちに泊まって行きなよ』と言われて……」

2度目のデートでこの展開。ホップからのステップを抜いてジャンプ!である。しかし、「うちに」と言っておきながら陽一さんが真奈美さんを連れて行ったのはビジネスホテルだった。言い訳は「自宅はちらかっているので」というありがちなもの。やや不安が残る出だしだ。

「それでもお泊りは楽しかったです。付き合っていることを確認したくて、『私たちどういう関係なの?』と聞きました。彼は口ごもってしまい、『次に会ったときに答えるよ』という返事だったんです」

「付き合っていないよ。だって、僕はまだ結婚を考えられないから」

かなり雲行きが怪しいが、真奈美さんは自らにストップはかけなかった。1週間後、紅葉を見にドライブへ。山の中で答えをもらう前に、真奈美さんは一人暮らしの家に陽一さんを誘った。

「どうしてもハグしたかったからです。何度もハグしたら彼は興奮してその先に進もうとしましたが、私は『今日はやらないよ』と断りました。軽い女に見られたくなかったからです」

生殺し戦略である。すると、陽一さんは予想外の宣言をした。

「わかった。僕もこの出会いを大事にしたい。マナちゃんの気持ちに合わせるよ。だから、今後はキスもしない!」

過剰反応である。真奈美さんは「キスはしてもよくない?」と思いつつ、「大事にしたい」という言葉を交際宣言と受け取ることにした。さらに、「マナちゃんに合わせる」は結婚を視野に入れているものと考えた。こちらはやや拡大解釈だ。

翌週に会ったときに真奈美さんは再度の確認をした。自分たちは付き合っているんだよね、と。陽一さんからは驚きの答えが返ってきた。

「付き合っていないよ。だって、僕はまだ結婚を考えられないから」

ショックを受けた真奈美さん。この時点で「じゃ、もう会わない。あなたのことは好きだったけど、私はちゃんと付き合える人が欲しいの。他の男性を探すね」と言い切り、陽一さんに追いかけさせる道もあったはずだ。しかし、焦った真奈美さんは翌週も陽一さんと会ってしまった。

「日帰りの温泉施設に行きました。待合室に女性誌があって結婚特集をしていたので、それに便乗して陽一さんに話したんです。私は38歳のうちに結婚したいという気持ちも伝えました」

付き合うことも拒絶している陽一さん。いきなり結婚を持ち出され、完全に逃げ腰になった。

「マナちゃんはいま38歳だよね。ということは、今年中には結婚したいの? 僕は最低でも2年ぐらいはかかると思う」

直接言ってほしかった。LINEでキレイごとを並べて去るなんて男らしくない!

さらに翌週もデートする約束になっていたが、前日になって「やっぱり会えない」と陽一さん。真奈美さんが何度LINEでメッセージを送っても「既読スルー」の状態になってしまった。昨年末の出来事だ。

「1日だけ、すごく泣きました。その後、いろんな友だちに話を聞いてもらったらスッキリしました」

直感と情熱で行動している真奈美さん。やや勢いがあり過ぎる側面もあるが、その分だけ立ち直りも早いのだ。現在は、陽一さんと出会ったマッチングアプリで新たな男性を見つけ、手つなぎデートを重ねている。

「陽一さんにも最後にメッセージを送りました。吹っ切れたので次に行きます!という内容です。それで安心したのか、今度は返信が来ました。『今まで本当に楽しかった。ありがとう。マナちゃんはキレイでかわいい人です。いい人と出会ってください』みたいな内容です。無責任で寂しい人だな、と思いましたね。私に不満があったのならば直接言ってほしかったです。LINEでキレイごとを並べて去って行くなんて男らしくない!」

真奈美さんは怒りを隠さない。そして、すでに前を向いている。未練を残すよりは怒りとともに吹っ切れたほうがいいのだろう。今度の相手とは、まずはちゃんと向き合って愛情と信頼を少しずつ深めてほしい。結婚はその先にある。

陽一さんのほうは今ごろどうしているのだろうか。真奈美さんとの楽しいデートを思い出し、激しく後悔しているかもしれない。

※登場人物はすべて仮名です。

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大宮冬洋(おおみやとうよう)

1976年埼玉県所沢市生まれ、東京都東村山市育ち。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。

2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。自主企画のフリーペーパー『蒲郡偏愛地図』を年1回発行しつつ、8万人の人口が徐々に減っている黄昏の町での生活を満喫中。月に10日間ほどは門前仲町に滞在し、東京原住民カルチャーを体験しつつ取材活動を行っている。読者との交流飲み会「スナック大宮」を、東京・愛知・大阪などで月2回ペースで開催している。

著書に、『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる~晩婚時代の幸せのつかみ方~』(講談社+α新書)などがある。

公式ホームページ
https://omiyatoyo.com

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