海外で働く彼と入籍前に挙式〜2年の待ち時間ですれ違う男女はやがて破局を迎えた〜

イラスト:新倉サチヨ

ふとした瞬間に、昔すごく好きだった人の面影や言葉が頭をよぎることがありませんか。

胸の内にしまっておいてもいいけれど、その人を美化しすぎたり悲しみが恨みに変わったりすると心が不安定になりかねません。美しくも苦しい強烈な恋の記憶は「博物館」に寄贈してしまいましょう。当館が責任を持ってお預かります。思い出を他人と一緒にしみじみと鑑賞すれば、気持ちが少しは晴れるでしょう。ようこそ、失恋ミュージアムへ。

婚活パーティーでの出会い。「この人は私と違う世界の人じゃない」

<今日、恋が終わりました>

読者の一人からこんなメールを受け取ったのは2年ほど前のことだ。簡潔な表現にせつない気持ちが込められていると感じて、筆者のメーラーの中にずっと保存してあった。久しぶりに連絡を取り、本連載の趣旨を説明すると、「私でよければもちろん」との快諾。嬉しい気持ちになり、東京・目黒駅前の「ホームパーティ」という良き店のランチを予約した。

メールをくれたのは都内の会社で事務職として働く藤井真由さん(38歳)。かつて婚約者だった7歳年上の晋一さんと出会ったのは都内で開かれた婚活パーティーでの席だったと明かす。

「日常生活では出会いがないので参加しました。男女それぞれ10人ずつぐらいの会だったと思います。彼は大学卒業後に留学をして、そのまま海外で働き続けている人です」

晋一さんは一時帰国中に婚活パーティーに参加し、一緒に海外で生活してくれる日本人女性のパートナーを探していた。控えめながらもしっかりとした考え方をする真由さんをすぐに見初め、積極的にアプローチ。真由さんのほうも「この人は違う世界の人じゃない」と感じた。

会社員なのに自由すぎる働き方をしたがる人とは「労働価値観」が違います

「家庭環境や教育、仕事内容などがあまりに自分とかけ離れていると、『合わせられない』と感じてしまいます。労働価値観も大事です。会社員なのに自由すぎる働き方をしたがる人をたまに見かけます。休暇などの制度をすべて使うことを最優先にしたり、会社への恩返しもせずに転職を繰り返したり、希望する部署に行けないからという理由で退職したり。会社命令は絶対だと思っている私には理解できません。会社に新しい風を入れるような言動には賛成しますが、最低限の礼儀は守らなければならないと思っています」

新卒で入った会社で情熱と責任感を持って働き続けている真由さん。自分でも気づかないうちにちょっと古風な「労働価値観」ができ上がっていたのだろう。

晋一さんは東京滞在中に真由さんに何度も会いに来てくれて、「付き合いたい」と告白。誠意があり、前向きで男気もあるところに真由さんも心惹かれた。彼が海外に戻った後は、メールと電話で毎日のように会話をした。

「よくしゃべってくれて、仕事をちゃんとやっていることが伝わって来ました。仕事は生活の8割ぐらいを占めるものなので大切だと私は思います」

真由さんが重視する「労働価値観」に関して晋一さんは合格をしたのだ。その後、真由さんは2、3カ月に1度のペースで渡航し晋一さんの家に泊まるという遠距離恋愛を1年ほど続けた。プロポーズを受け入れて、彼の拠点であるアジアの某国に住むことが決まったのは3年前のことだ。

居住資格という高すぎる壁。見解の相違で気持ちも離れてしまった

「彼の帰国タイミングに合わせて結婚式も挙げちゃったんです。家族と友人数名の小規模のものですけど。式の準備は私一人でやって大変だったのでちょっとイライラしましたね。今思うと、そのときから雲行きが怪しかったのですが、何とかなるだろうと思っていました」

筆者も離婚経験があるので真由さんの心境が少しわかる。好きな相手と結婚に向けて歩んでいるはずなのに、なぜか物事がスムーズに運ばず、気持ちも晴れない。他人に相談すれば「マリッジブルーだ」と片づけられるかもしれないが、そもそも結婚相手としての組み合わせが良くないのかもしれない。でも、今さら引き返したくない。根本的な不安にギュッと目をつむり、事務的に前へと進んでしまう。その先には破局が待っている予感があったとしても……。

幸か不幸か、晋一さんと真由さんの場合は婚姻届を出す前に破局が来た。晋一さんが骨をうずめる覚悟で住み働いている国は、すでに居住資格がある外国人が同国人と新たに結婚した場合でも、その国で一緒に住めるのは2年ほどかかってしまうことが判明。偽装結婚による外国人労働者の流入を警戒しているのだろう。

「彼からは学生として渡航して一緒に住もうと提案されました。でも、私のほうで調べてみるとそれは違法です。バレたら強制退去になってしまいます。彼が住む国に行くこと自体は問題ないので2年待つつもりでした。でも、彼はそれでは納得しません。意見が完全に分かれてしまい、先が見えないままに半年が経ちました」

遠距離婚約中の彼らにさらなる不幸が訪れる。晋一さんの父親と真由さんの祖母がほぼ同じ時期に亡くなったのだ。ショックで精神的に不安定になる2人。でも、一番頼りたい相手と抱きしめ合うことすらできない。いらだった晋一さんは電話で真由さんにつらく当たるようになり、真由さんのほうも「言うべきではないことを言ってしまった」と明かす。お互いの気持ちは次第に離れていき、別れることになった。2年前の秋の出来事だ。

縁がある場合はとんとん拍子で進むもの。どうにもこうにも進まない関係性もある

「今でもモヤモヤとした気持ちはあります。ときどき彼のことを思い出すんです。でも、関係を続けていくのは難し過ぎたのでしょうがなかったとも思います。結婚式に来てくれた友だちにも別れてしまったことを報告したら、『どうにもこうにも進まない関係性ってあるよね。縁がある場合はとんとん拍子で進むものだよ。私たち夫婦のときはそうだった』と言って慰めてくれました」

それでも真由さんは反省モードだ。逆境のときに頭に血が上り、大切な人に「言うべきではないことを言ってしまった」ことを後悔している。

「私は基本的には穏やかな人間だと自覚しています。でも、それは環境が整っている場合で、そうでないときは一人っ子のわがまま気質が出てしまいやすいんです。カッとなりそうなときでも、冷静に礼儀正しく振る舞えるようになりたいと思います」

反省するのは良いことだが、自分を責めすぎないようにしてほしい。筆者は、真由さんの友人の「縁がある場合はとんとん拍子で進むもの」という意見に賛成だ。結婚にはフィーリングと同じぐらいタイミングも重要で、お互いに良き状況で知り合うことが「ご縁」の正体だとすら感じている。もしも真由さんが晋一さんの住む国ですでに働いていて、居住資格も持っていたら、ケンカなどはせずに温かい家庭を築いていたかもしれない。

苦しいことが重なってしまうと、イライラして他人を思いやる余裕がなくなるのは当然だ。肝心なのは、自分の気質を変えることではなく、気持ちや時間の余裕が皆無になる状況を避けることだと思う。

真由さんは今、心の平安を取り戻し、愛する会社で元気に働き続けている。新しい出会いを求めることを忘れなければ、「とんとん拍子で」一緒に前に進める男性と知り合う日も訪れるはずだ。

※登場人物はすべて仮名です。

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大宮冬洋(おおみやとうよう)

1976年埼玉県所沢市生まれ、東京都東村山市育ち。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。

2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。自主企画のフリーペーパー『蒲郡偏愛地図』を年1回発行しつつ、8万人の人口が徐々に減っている黄昏の町での生活を満喫中。月に10日間ほどは門前仲町に滞在し、東京原住民カルチャーを体験しつつ取材活動を行っている。読者との交流飲み会「スナック大宮」を、東京・愛知・大阪などで月2回ペースで開催している。

著書に、『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる~晩婚時代の幸せのつかみ方~』(講談社+α新書)などがある。

公式ホームページ
https://omiyatoyo.com

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