結婚は考えていないと6歳年下の彼に切り出された別れ〜1年後、突然訪れた彼の退職に私が涙したワケ〜

イラスト:新倉サチヨ

ふとした瞬間に、昔すごく好きだった人の面影や言葉が頭をよぎることがありませんか。

胸の内にしまっておいてもいいけれど、その人を美化しすぎたり悲しみが恨みに変わったりすると心が不安定になりかねません。美しくも苦しい強烈な恋の記憶は「博物館」に寄贈してしまいましょう。当館が責任を持ってお預かります。思い出を他人と一緒にしみじみと鑑賞すれば、気持ちが少しは晴れるでしょう。ようこそ、失恋ミュージアムへ。

忙しい部署に同じタイミングで異動した6歳下の彼。「お礼」の食事に誘われて……

「みんなで飲んでいても、積極的に私に話しかけてくれる人でした。でも、恋愛感情なしで単に懐いてくれる年下の男性もたまにいます。彼との距離を測りかねていました。日頃、職場で顔を合わせる人なので、下手なことをして気まずくなったら嫌だな、とも思っていました」

新卒入社の大企業に正社員として勤め続けている伊藤奈緒さん(42歳)に、5年前の恋と別れを振り返ってもらっている。色白で優しげな雰囲気の美人である。恋の相手は6歳年下の同僚、貴志さんだ。

2人の出会いは、2013年の春。繁忙期は残業続きと知られている部署に同じタイミングで異動してきた。当日、奈緒さんは30代半ば。新人というわけではないが、異動組の中では紅一点の事務職(一般職)なので甘やかしてもらえる立場だったと明かす。

なお、その部署は総合職にとっては上を目指すための花形部門としても知られている。希望もやる気もある若手が集まって長時間労働をすれば、職場恋愛が生じるのは時間の問題だ。

「貴志さんと個人的に会うようになったきっかけは、彼のエクセル作業を頼まれて手伝ってあげたことです。お礼に食事をご馳走させてください、と言われて、鍋を食べに行った記憶があります。鍋だから冬になっていたんですね。会社帰りに気軽に寄れるような大衆的な店で、話しやすかったです」

彼らが働いているのは社員数が数千人で、海外にも拠点がある大企業。社内でもまったく見知らぬ人が多いの中、2人には共通の知り合いという薄い共通点があった。貴志さんが海外拠点で働いていたときの同僚だ。

「私は昔から海外に興味があり、学生時代に留学したこともあります。貴志さんから現地の話を聞くのも楽しかったです。」

「コミュニティ外」の人とは付き合ったことがない私。距離感をとるのが上手な彼

一見するとおおらかで話しやすい雰囲気の奈緒さんだが、学生時代から「コミュニティ外」の人とは交際したことがないと明かす。合コンも数多く経験したが、一度デートをするとお互いに興味を失って疎遠になることがほとんどだった。奈緒さんは人見知りで警戒心の強い性質を隠し持っているのだと思う。

「貴志さんは積極的なんだけど人との距離感をとるのが上手い人でした。切れ者というより可愛がられキャラですね。人の懐に入るのが上手なんです。距離をガンガン詰めて来ないので、私も自然に仲良くなることができました」

ただし、貴志さんは恋愛感情の有無すらわかりにくい人だった。最初の鍋デートから、2カ月以上も経ってから次のデートを誘ってきたのだ。逆に、年上の奈緒さんのほうからアプローチする道はなかったのだろうか。

「他に好きな人がいたわけでもないし、彼のことは『いいな』と思っていたので、他の会社の人だったら次の誘いぐらいは私のほうからしたかもしれません。でも、当時の私は(紅一点の独身で)何かと噂になりやすい立場だったので、自分からは誘えませんでした。今から思うと、彼は他にも気になる女性がいたのかもしれません」

貴志さんが次に奈緒さんを誘ったのはなんと半年後。夏休みで東南アジア旅行をして来たところ、「写真を見せてください」とまたしてもデートの提案。そして、今度は食事だけではなく映画も一緒に観に行った。

それでも貴志さんは動こうとしない。楽しかったね、で終わろうとするのだ。会話もお互いに敬語のままで、距離感は縮まらない。彼はいったい何がしたいのか。奈緒さんは「もやもや」が深まり、解消するために小さな勝負に出た。日をおかずに次の食事に誘ったのだ。

「彼からふわっとした答えしか返って来なかったら期待するのはやめようと思っていました」

貴志さんは「行きましょう!」の即答。クリスマス直前のタイミングだ。いい寿司屋を予約してくれ、大人の雰囲気のバーにも連れて行ってくれた。相変わらず口説きや告白の言葉はなかったが、2人の間には暗黙の了解がとれたのだろう。ようやく交際が始まった。2015年の初めのことだ。出会いから2年弱の歳月が流れていた。

「ゴメン、このまま付き合っていられないです。結婚は考えていないから」

付き合い始めの頃は一緒に国内旅行をするほど仲が良かったと奈緒さんは淡々と振り返る。酒好きで外食好きの貴志さんはいろんな飲食店にも連れて行ってくれた。泊まるのは貴志さんの一人暮らしのマンションだ。

しかし、しばらくすると貴志さんのモラハラ傾向が目立つようになった。旅先に関しても奈緒さんが提案はすべて却下。奈緒さんが料理をするときに「何を食べたい?」と聞いたところ、「実家のごはんが食べたい」と言われたこともあった。

「すごく悲しいな、と思いましたね……」

それでも奈緒さんは貴志さんとの結婚を夢見ていた。自分はそろそろ37歳の誕生日を迎える。6歳下の貴志さんの周囲も結婚ラッシュが始まっている。貴志さん自身もまったく結婚を考えていないわけではないだろう、と思っていたのだ。

その年の冬のこと。貴志さんは奈緒さんとのデートよりも友だちとの遊びを優先するようになり、モラハラ発言も増えていた。仕事も忙しく、公私のストレスが溜まっていたのかもしれない。奈緒さんは体調を大きく崩してしまった。しかし、貴志さんは親身にはなってくれず、「病院に行ったら?」と言う程度。別れは年末にやってきた。

「普通に楽しく食事していたら、最後になって急に切り出されたんです。『ゴメン、このまま付き合っていられないです。結婚は考えていないから』と言われました」

思わせぶりだった期間も含めると2年以上も30代後半の独身女性と付き合った挙句の発言である。怒り心頭に発するところだが、奈緒さんは声を荒げることはなかった。「ずっと様子がおかしかったもんね」と理解を示すにとどめたのだ。明日になったら職場で顔を合わせなければいけない、という自制心が働いたのかもしれない。

ただし、今までのように振る舞えるわけではない。奈緒さんは職場で貴志さんから挨拶をされても「全無視」していたと明かす。仕事でどうしても必要なときに最小限度の会話をするのみだ。

「大人げなかったとは思います。でも、仕方なかったんです。私はすでにアラフォーになっていました。結婚もしたかった。少なくとも気軽に付き合うようなタイプではないことは彼もわかっていたはずです。それなのに、なぜ私を誘ったのでしょうか」

職場で会っても「全無視」。でも、彼が会社を辞めると知ったら涙が止まらなかった

かつて奈緒さんが恐れていた気まずい関係は1年ほど続いた。当然、プライベートで連絡を取り合うことはしなくなり、奈緒さんは少しずつ平静さを取り戻していった。

貴志さんが転職をすることになったのは2016年の冬のことだ。奈緒さんとのことは誰にも知られていなかったので、別れの気まずさが原因ではもちろんない。愛されキャラではありつつも「仕事ができる」タイプではなかった貴志さんにとって、新天地を求めての旅立ちだったのだろう。

「そのことを聞いたとき、私は一人で号泣をしてしまいました。彼のことを無視していたし、嫌いにもなっていましたが、これで完全に縁が切れちゃうのだと思って、自然と泣けてしまったんです。よりを戻したいとは思いませんでした。でも、もう1回、彼に思い切り文句を言いたかった。『どうして私と付き合ったの!』って」

その後、奈緒さんには恋人はいない。貴志さんとのこともあり、男性に対する警戒心が強まっているようだ。

「最初は『いい人だな』と思っても、彼のようにモラハラになるかもしれません。いい関係が続くとは限らないと思うと、恐怖感があります」

いま、すこぶる健康になった奈緒さんは仕事も充実し、ゴルフや山登りの趣味があり、親しい友だちもいる。東京で暮らしているうちには寂しさはあまり感じない。地方にいる両親も元気だ。

「今はいいんです。でも、この状況がずっと続くわけではないこともわかっています。将来を考えると、何らかの努力は必要ですよね。独身のみゴルフコンペに参加したりもしていますが、恋愛にまで発展するのはなかなか難しいです」

貴志さんとの思い出は完全に過去のものとなっている奈緒さん。自分が誰かを本気で好きになるためには共通点と時間が必要だと知りつつ、出会いの努力はしている。

妊娠出産などを目指さないのであれば、このままで問題はないように筆者は思う。一緒に生活するパートナーではなくても、何かを頼めば手を差し伸べてくれる友だちもいるならば、お互いに少しずつ「親身」になればいいのだ。そこに貴志さんのような薄情者が介在する余地はない。

※登場人物はすべて仮名です。

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大宮冬洋(おおみやとうよう)

1976年埼玉県所沢市生まれ、東京都東村山市育ち。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。

2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。自主企画のフリーペーパー『蒲郡偏愛地図』を年1回発行しつつ、8万人の人口が徐々に減っている黄昏の町での生活を満喫中。月に10日間ほどは門前仲町に滞在し、東京原住民カルチャーを体験しつつ取材活動を行っている。読者との交流飲み会「スナック大宮」を、東京・愛知・大阪などで月2回ペースで開催している。

著書に、『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる~晩婚時代の幸せのつかみ方~』(講談社+α新書)などがある。

公式ホームページ
https://omiyatoyo.com

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